黒い車からVIPのように登場したと思ったら、キッチンでは誰かが鍋をかぶり、今度は翼のある人物から王冠を授けられる。INMU KINGのMV、普通に見ているだけでも忙しいですよね。ところが元ネタを少し知ると、「そこまで拾っていたの?」と巻き戻したくなる場面が増えます。
青いスーツの主人公は、野獣先輩をモチーフにした人物。周りにいる人たちにも、車にも、飲み物にも、それぞれネタの入口があります。屋上まで意味があるので、背景だからと油断できません。
この記事では、INMU KINGの登場人物と元ネタを10枚の画像で解説します。名前の暗記はひとまず後回し。「誰が、どこで、何をしているか」を追いながら、初見だと通り過ぎてしまうMVの見どころを拾っていきましょう。
作者・作品名・原曲の関係を先に知りたい方は、INMU KINGとは 作者と元ネタの解説へ。
1 TNOKの黒い車 いきなりVIP待遇で始まる
最初の数秒から、扱いがずいぶん丁重です。黒い車の後部ドアを、薄紫色のスーツ姿の人物が開ける。周りには人が集まり、このあと青いスーツの主人公が登場します。まず画面で目を引くのは、この「お迎え」の構図。

ドアを開ける人物はTNOK(たにおか)のモチーフとされています。『真夏の夜の淫夢』第1章で、黒い車への接触事故をきっかけに登場する役で、車と人物の組み合わせ自体に元ネタがあります。
筆者が面白いと感じるのは、その車の役割の変わり方。元ネタを知る人には緊張感のある車が、ここでは主役を格好よく迎えるための舞台装置に見えるところです。「その車、その人が、お迎え係に?」と気付くと、丁寧なドア開けまでちょっと可笑しくなるんです。
このあと青いスーツの野獣先輩が入っていく建物は、真夏の夜の淫夢で野獣先輩が遠野を誘って入っていく時に登場します。この建物は真夏の夜の淫夢の制作会社であるコートコーポレーション本社でもあり、淫夢ファンの聖地とされています。毎年8月10日の野獣の日には多くの淫夢ファンが世界中から訪れるので、車をとりかこむ男性たちはそのファン(=淫夢厨、ホモガキ)を表しているとみられます。
2 玄関の遠野とMYN この3人は同じ作品の仲間なのか
玄関を開けたら、もうダンスが始まっています。中央に青いスーツ、左にえんじ色のスーツ、右に横縞のシャツ。靴が並ぶ生活感たっぷりの場所に、主役を挟む3人の配置が妙に決まっているのが、このカットです。

中央が野獣先輩、左が遠野、右がMYN(ミヤネ)。遠野は『真夏の夜の淫夢』第4章で野獣先輩と共にこの玄関に登場しています。
MYNは『大人の事件簿』第2章に登場した人物で、役名ではなく、宮根誠司に似ているということでMYN(ミヤネ)というあだ名がついたとされていますが、下の実際の場面で筆者が見る限りだとそこまで似ているとも思いませんでした。MYNはSGW(サガワ)と呼ばれていることがあり、荷物配達員の役としてこの佐川のユニフォームに似た服をきていることからその名前がついたとされています。

この玄関は制作会社であるコートコーポレーション本社ですが、生活感がやたらあるのはこの本社が社長の自宅も兼ねているためと思われます。
3 MURのハイタッチ 強そうな先輩が気軽に迎える
玄関のダンスを抜けると、階段側に黒いスーツと赤系のシャツの人物が待っています。この画像は、主人公と手を合わせる直前。見た目はなかなか貫禄がありますが、やっていることは気軽なハイタッチです。

このハイタッチ相手はMUR(みうら)で、野獣先輩と同じ、通称「迫真空手部」の作品に登場する先輩役です。二次創作ではマイペースなキャラクターとして扱われることもあります。
見落としやすいのは、登場が本当に短いこと。顔をじっくり覚える前に次の部屋へ進んでしまいます。「階段で手を上げるMUR」と場所と動作で覚えると、後の屋上でも見つけやすくなります。
4 キッチンのKMR 鍋の中身を食べずに浴びる

鍋を持つ人物がKMR(きむら)。MURと同じ「迫真空手部」の後輩役に由来します。鍋の中身をカレーと見る解説があり、別作品から育った「スープカレー」系のキャラ付けに結び付けるファン解釈もあります。
この解釈を踏まえると、元作品の登場人物に、後からネットで足されたネタまで重なっていることになります。筆者が楽しいと感じるのは、主役がグラスを手に前へ出ている間も、背後で別のネタが進んでいるところ。一人を見ているだけでは、画面の半分を取りこぼします。
左の濃緑のスーツ姿の人物は、ファン解説ではDiscovery10に由来するモチーフです。次に見るときは、主人公からいったん視線を外してみてください。鍋を浴びる人と、それを横で見る人までいるのに、MVはすました顔で先へ進みます。
5 アイスティー 普通のお茶に見えて物語の鍵
鍋の騒ぎのあと、注目したいのはグラスの方です。えんじ色のスーツの遠野のモチーフが、主人公の隣で飲み物を口にする。そのあと、ソファで主人公の肩にもたれる場面へ。初見では、にぎやかな集まりの途中のひと休みに見えるかもしれません。

この場面と、「さあ今このアイスティーを飲み干そう」という歌詞は、元作品の『真夏の夜の淫夢』第4章で、野獣先輩が遠野に渡すアイスティーに睡眠薬が入っており、遠野が意識を失う展開に由来しています。「聖なる昏睡レ⚪︎プを受け入れ」という歌詞も、『真夏の夜の淫夢』第4章で、睡眠薬で昏睡状態になった遠野が野獣先輩に性的におそわれてしまう場面から来ています。
6 屋上のダンス 日焼けしていた場所がステージになる
サビで5人が踊る屋上。ここまでの室内と比べると空が広く、ダンスを見せるのにぴったりの場所です。でも「屋外に移ったんだな」で済ませると、もう一つのネタを取りこぼします。ここは、背景そのものが見どころなんです。

なぜいきなり殺風景な住宅街の屋上の場面になるのかと疑問に思うかもしれないですが、この屋上は元作品の『真夏の夜の淫夢』第4章で、野獣先輩が遠野を屋上へ誘い、二人で日焼けをしていた場所になります。
筆者が面白いと感じるのは、二人の日光浴の場所が、今度は仲間を集めたダンスのステージになること。「あの屋上で、こんなに元気に踊るのか」と知っている風景の用途が変わります。顔や衣装だけでなく、どこに立っているかまで元ネタ探しになる場面です。
初見では中央の振り付けに目を奪われますが、玄関の遠野、階段のMUR、鍋のKMRも思い出してみてください。室内で別々に紹介されたモチーフが、屋上ではまとまって踊る。場所の由来が分かると、この集合も少し違って見えてきます。
7 中野くんの食卓 立派な広間で皿が顔を隠す
屋上から一転、石造りの広間に長い食卓。ずいぶん立派な晩餐が始まったと思ったら、白い皿が野獣先輩の顔に投げつけられています。

この白いコック服の料理人は、職場淫猥白書9に登場する中野くんのモチーフと言われています。またこのテーブルはレオナルドダヴィンチの「最後の晩餐」がモチーフとみられ、野獣先輩を真ん中に配置しているのは「彼こそが我らのイエスキリスト」という歌詞にあるように、野獣先輩をイエスキリストとして模しているとみられます。
8 GOの戴冠 神に見立てるネタをそのまま大きな絵にする
次は王冠です。ステンドグラスの光が入る広間で、白い翼のある人物が、ひざまずく主人公に冠を授けています。さっきまで玄関で踊っていたのに、もう戴冠式。映像のスケールが一気に上がります。

ファン解説では、冠を授ける側がGO(ごう)。GOを神に見立てる「GOは神」というネットミームとのつながりが挙げられています。宗教上の説明ではなく、ファン文化の中で育ったキャラクターの扱いです。
筆者には、この場面が言葉のネタを大げさな絵に変えたものに見えます。「神」と呼ばれるモチーフが、翼を持って現れ、主人公を「KING」にする。壮大な儀式として見せるほど、出発点がネットの呼び名だったこととの落差が可笑しくなるんです。
王冠だけを追うと見落とすのが、GO側の白いTシャツとジーンズ。大きな翼に荘厳な背景なのに、服装には日常が残っています。そのちぐはぐさも、この画像の見どころ。なお、「タイトルのKINGをここで完成させている」というつながりは筆者の読み取りで、作者が明言した意図とは区別します。
9 プーさんの舞台 クマだけ見ても背景を見ても意味が変わる
赤い幕の舞台で、主人公の隣に黄色いクマ。赤い服も着ていて、見た目はおなじみのプーさんです。人物を覚えながら見ていたところへ、急に着ぐるみのような相手が入ってくるので、初見でもかなり目を引きます。

高市早苗、金正恩、トランプと大物政治家が続いて登場してきたなかに突然出てきたプーさん。プーさんは可愛いけど、一体なぜここで登場?と疑問に思う人も多かったと思います。
このMVの制作はSeedance系のAIで作られたとみられていますが、Seedanceは中国製であるため習近平の映像書き出しに制限がかかり、やむなくプーさんに切り替わったものとみなされています。このMVは中国でも人気と言われていますが、中国の公共の場で再生される際本当に問題ないのかは筆者としては気になるところです。
10 王道銀行 架空の看板かと思ったら実在する
最後に見るのは、人ではなく看板です。主人公が指すのは、黄色い「王道銀行」の文字。「KINGに合わせて作った架空の銀行かな」と思いたくなりますが、王道銀行(O-Bank)は台湾に実在します。しかも、名前だけで話が終わりません。

歌詞の最初にも出てくる「王道を征く」。実はこれは野獣先輩語録の一つとしてファンに親しまれています。もともとは真夏の夜の淫夢 第2章の冒頭インタビューで、インタビュアーと野獣先輩でこのようなやりとりがあったことに由来しています。
聞き手「風俗とか行くの?」
野獣「行ったことありますよ」
聞き手「どういう系統が好きなの?」
野獣「やっぱり僕は王道を往く、ソープ系ですか…」
野獣先輩は台湾でも人気なので、この銀行の存在が話題となり、さらに偶然なことになんと王道銀行の郵便番号が114514だったため、この銀行は一気に聖地となりました。114514というのは、「いいよ!こいよ!我ら包む抱擁」という歌詞もありますが野獣先輩語録の一つであり、真夏の夜の淫夢で野獣先輩が、最終フィニッシュをしようとしている遠野にむかって「いいよ!こいよ!」と言ったセリフの数字語呂合わせにになっています。
まとめ 次は主人公の横と後ろも見てみよう
INMU KINGのMVを面白くしているものは、顔ぶれの多さに加えて、モチーフの使い方です。黒い車は主役の登場を演出し、日焼けの屋上はダンスのステージに。普通に見えるアイスティーには元作品の展開が重なり、「GOは神」は翼と戴冠式になっています。
筆者がもう一度見たくなるのは、主役以外の場所でもネタが動いているからです。次はキッチンの後ろ、食卓の皿、屋上の風景、銀行の看板に目を向けてみてください。「誰だろう」が一つ解けるたびに、「なぜここでこれをするのか」まで見えてきます。
作者や作品名の基本に戻りたいときは、INMU KINGとは 作者と元ネタの解説もどうぞ。